映画「国宝」と糖尿病

みなさん、こんにちは!お久しぶりです。  

 

ここ最近、『忙しい』を言い訳にして、ブログの更新がすっかり滞ってしまいました。申し訳ありません。

 

さて、最近クリニックの外来で、患者さんからこんな声をよくいただきます。

 

  「先生、『国宝』観た?」「私はもう5回も観に行ったよ!先生も観た方がいいよ」   そんなおすすめを何度もいただいたので(笑)、先週ようやく観に行ってきました。

 

感想は,,,,,,とても良かったです! 今日はそのお話。    

 

 

映画 国宝

公開後、動員数が 1,000 万人を突破、興行収入は 142 億円超え。

 

  多くの方が劇場に足を運ばれた作品ですが、この映画には「糖尿病とどう向き合うか」というテーマも描かれていると思います。

 

糖尿病を理解するうえで、いい教材になるのではと思い、今回ブログの題材に選びました。  

 

 

映画『国宝』の概要・みどころ

主人公・喜久雄は、任侠の家に生まれながらも、歌舞伎役者として生きる道を選びます。  

 

歌舞伎界の重鎮・花井半二郎に引き取られ、その御曹司息子である俊介との関係を軸に、芸の道での葛藤、絆、そして裏切りが描かれます。  

 

見どころは、歌舞伎舞台の圧倒的な迫力、舞台裏の緊張感、時間を超えて描かれる人生の変遷、そして宿命や運命が重なりあう構成です。

 

  特に印象的だったのは、本で読むのでは想像できなかった歌舞伎のシーン。

 

  特に『曽根崎心中』の「死ぬる覚悟」のシーンは鳥肌ものでした。

(昔「お〜い、お茶」のCMで見た、市川海老蔵さんが体全体で長い髪を振り回していた演目も登場していました。題目は不明…)    

 

 

映画で見られる糖尿病描写・糖尿病専門医目線(ネタバレ注意)

足の壊疽・切断

晩年、俊介は糖尿病による足の壊疽から膝下切断に至ります。  

 

これは、糖尿病の血糖コントロール不良によって、動脈硬化と神経障害が進行し、血流障害から壊疽に至ったものと考えられます。  

 

HbA1cが7%を超える状態が数年続くと、最初に現れる合併症は神経障害と言われています。  

 

初期症状としてこむらがえり足の痺れが現れ、さらに進行すると胃の不快感・便秘・下痢・発汗異常・立ちくらみ・不整脈・ED(勃起障害)など多彩な症状が出てきます。

 

靴擦れや水虫、爪の変形などの小さな傷がきっかけとなり、足壊疽に至ることもあります。  

 

⚠️常に足を清潔に保ち、毎日よく観察すること・変化があれば早めに受診することが大切です。    

 

 

 ②視力低下・失明傾向

花井半二郎が視力を失っていく描写があり、これは糖尿病網膜症を示唆するものです。  

 

血糖コントロールが不良な状態が続くと、網膜症は「単純網膜症」 →「増殖前網膜症」→「増殖網膜症」と進行します。

 

  視力異常が出るのはかなり進行してからであり、初期は自覚症状に乏しい点が特徴です。

 

  ⚠️症状がなくても定期的な眼科受診が必要です。    

 

 

吐血・大量出血

白虎襲名の壇上で大量に血を吐く描写があります。  

 

これは、物語上のドラマ性を強める演出と考えられ、必ずしも糖尿病に直接起因由来するとは限りません。  

 

ただし、糖尿病の方は癌の合併率が非糖尿病者よりも約2割高いと報告されています。  

 

例えば胃癌など他疾患の併発による吐血だった可能性はあります。

 

糖尿病の方に多い癌は、肝臓癌・膵臓癌・胃癌・大腸癌・肺癌・子宮体癌などです。

 

⚠️毎年のがん検診(可能なら人間ドック)を受けましょう。   当院に通院中の方のがん検診受診状況はスタッフ全員で常に確認・情報共有しています。紹介状も作成しますので気軽に申し付けください。    

 

 

親子で糖尿病を患う/遺伝的な要素

映画では、半二郎と俊介の親子がともに糖尿病を患っている、という描写があります。

 

糖尿病は、「家族に糖尿病の方がいる」うえに、「過去に10kg以上太ったことがある(肥満歴がある)」場合、発症リスクは高いとされています。    

 

 

病とともに芸を追う姿

病気を抱えながらも舞台を続けたいという情熱、過酷な稽古、体力や精神との折り合いなどが描かれています。

 

糖尿病治療の目的は、合併症を予防し、糖尿病のない方と変わらない人生を送ることです。

 

糖尿病発症から間もない頃から適切な治療を行い血糖コントロールが良好に経過すれば合併症を予防することができます。

 

⚠️合併症予防には糖尿病のみでなく、禁煙・体重管理・血圧脂質の管理も並行して行うことが重要です。糖尿病教室でよく話す「車の4つの車輪」の話です。    

 

 

⑥社会的理解・偏見・周囲のサポート

「スティグマ」という言葉があります。直訳は「烙印」で、社会的レッテルを意味します。

 

糖尿病に対して「だらしない人がなる病気だ」といった誤解が根強くあります。

 

そのため、糖尿病を隠してしまい、結果的に治療が遅れるケースもあります。

 

糖尿病との闘いを個人だけに背負わせず、社会全体で支える意識が求められます。    

 

 

啓発の視点

この映画は「糖尿病合併症は静かに進行する」という現実を歌舞伎という華やかなものと対比して伝えていると思います。

 

糖尿病合併症が進行しても、実際にその姿を目にする機会が少ないため、「合併症予防の重要性」が実感しにくいのが現状です。

 

糖尿病合併症が”遠い世界の話ではない”と感じてもらえるきっかけになればと思います。   皆さんも機会あれば観てみてください。

 

  🍏ご質問があれば、遠慮なく診察室でお聞ききください。  

 

 

2025年10月11日  9:00

⦅ かきざき糖尿病内科クリニック ⦆ 

青森県青森市篠田2-20-15

017-757-9080  

 

 

 

(三沢の朝。水温はまだ暖かいです:)    

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